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広島高等裁判所 昭和50年(行ソ)1号 判決 1975年10月14日

西宮市丸橋町二の二七

再審原告

森行直

尾道市東御所町

再審被告

尾道税務署長

乾文男

右指定代理人

川井重男

松田良企

岩井清

重岡蔦夫

右当事者間の審査決定取消請求再審事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件再審の訴を却下する。

再審費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告は、「広島高等裁判所が同庁昭和四二年(行コ)第六、一三号審査決定取消請求控訴、同附帯控訴事件につき昭和四三年六月二七日言渡した判決、および同裁判所が同庁昭和四八年(行ソ)第一号審査決定取消請求再審事件につき昭和四九年一二月二六日言渡した判決をそれぞれ取消す。広島地方裁判所が同庁昭和三八年(行)第七号審査決定取消請求事件につき昭和四二年三月八日言渡した判決を次のとおり変更する。再審被告が再審原告に対し昭和三七年三月二七日付をもってした再審原告の昭和三五年分所得税の総所得金額を一、一八七万五、五五一円とする更正処分(ただし昭和三八年三月一八日付広協第二一四号による広島国税局長の裁決により一部取消され、所得金額九二三万五、六九五円とされた。)のうち、再審原告の確定申告額一六一万一、八五一円を越える部分を取消す。本訴第一、二審、広島高等裁判所昭和四八年(行ソ)第一号事件および本件再審の訴訟費用は再審被告の負担とする。」との判決を求め、再審被告は主文同旨の判決を求めた。

(再審原告主張の再審事由)

一、広島高等裁判所が同庁昭和四二年(行コ)第六、一三号審査決定取消請求控訴、同附帯控訴事件(広島地方裁判所が同庁昭和三八年(行)第七号審査決定取消請求事件につき昭和四二年三月八日言渡した判決に対する控訴、同附帯控訴事件)について昭和四三年六月二七日言渡した判決(以下原判決という。)は、最高裁判所における同庁昭和四三年(行ツ)第一〇〇号事件の上告棄却の判決言渡によって、昭和四七年一〇月一七日確定した。

なお、広島高等裁判所が同庁昭和四八年(行ソ)第一号審査決定取消請求再審事件について昭和四九年一二月二六日言渡した判決(以下再審第一回判決という。)は昭和五〇年一月一二日確定した。

二、ところが、再審被告が昭和三七年三月二七日付をもってした再審原告の昭和三五年分所得税に関する更正処分(以下本件更正処分という。)および広島国税局長が昭和三八年三月一八日付広協第二一四号をもってした裁決(以下本件審査決定という。)には次のとおりの違法がある。

1. 本件審査決定は、設計設備指導料および譲渡所得の事項について追加審査決定をしたが、これらは本件更正処分には全くなかった事項であり、従って審査の対象とならないのにもかかわらず、本件審査決定において突如として追加されたものであって、右は不服の範囲で審査するという行政不服審査法四〇条五項の規定に反し、不服の範囲を越えて再審原告に不利益に変更された違法がある。

2. 本件審査決定は、再審原告が島根殖産工業株式会社から設計設備指導料として金五〇万円を所得したものとして追加審査決定をしたが、右は、再審原告が前記会社から純中性無水茫硝製造に関する特許料として受領したものであって、右特許権の取得に要した経費を控除すべきであるのにもかかわらず、前記のように事実を誤認したうえ課税した違法がある。

3. 本件審査決定は、譲渡所得二八万二、九〇〇円の追加審査決定をしたが、右は、再審原告が高木喜夫から土地、建物を合わせて合計金一二〇万円で買受けたものであるのにもかかわらず、再審原告の買入れ価格を六〇万円と認定したうえ課税した違法がある。

4. 本件審査決定は有価証券の取引所得七〇五万二、三九四円と審査決定をした。株式取引に基づく所得計算について、所得税法、同法施行規則およびこれに関する通達によると、継続して有価証券を売買したことによる所得が課税の対象になるのは、年間の取引回数が五〇回、取引株数が二〇万株を越える場合でなければならないことになっており、再審原告の場合は株式取引回数が二八回、取引株数が一九万三、二〇〇株であるに過ぎないのにもかかわらず、本件審査決定において株式取引回数が六二回、取引株数が五〇万六、四〇〇株と誤認して課税対象にかかげ、もって本来非課税となるべきものについて課税をした違法がある。

増資新株の取得は、継続的取引に含まれないし、かつ取引回数の算定にあたっては、売りと買いを個々に計上すべきでなく、売りと買いを合わせて一体として回数に計上すべきであるのにもかかわらず、本件審査決定は、この点について誤りを犯したため、前記のように違法な課税をしたものである。

三、原判決(第一審判決の引用部分を含める。以下同じ。)および再審第一回判決は、本件更正処分(本件審査決定による変更を含める。)に存する前記違法について、いずれもこれを是正しなかったが、右は判断を遺脱したものというべきであって、民事訴訟法四二〇条一項九号所定の再審事由に該当する。

四、再審原告は昭和五〇年八月一三日付準備書面の作成にあたり、前記再審事由が存することを知った。

(再審被告の答弁)

再審原告主張の再審事由二項の1記載の違法に関しては、原判決およびその第一審判決の審理手続において再審原告が主張しなかったものであり、かつ同3.4.記載の違法に関する再審原告の主張については原判決が判断しているから、再審原告主張のような判断の遺脱はない。

理由

一、広島地方裁判所昭和三八年(行)第七号審査決定取消請求事件、広島高等裁判所昭和四二年(行コ)第六、一三号同控訴および附帯控訴事件、最高裁判所昭和四三年(行ツ)第一〇〇号同上告事件の各記録(以下原記録と総称する。)、ならびに広島高等裁判所昭和四八年(行ソ)第一号審査決定取消請求再審事件の記録によると、再審原告主張の再審事由一項記載の事実が認められる。

二、そこで本件再審事由の有無につき検討することとする。

再審原告主張の再審事由二項の1記載の違法に関しては、原記録によると、原判決の基礎となった口頭弁論(前記控訴および附帯控訴事件の第一回口頭弁論期日において陳述された第一審の口頭弁論の結果を含む。)において再審原告が主張していないことが明らかである。従って原判決が右違法の有無について判断していないことをもって判断の遺脱があるとはいえない。

さらに、同2ないし4記載の違法に関する再審原告の主張については、原判決が判断を加えていることが原記録中の原判決正本により明らかであって、所論のような判断の遺脱はない。

結局、所論はたんに原判決の認定、判断を争うに過ぎないものであって、民事訴訟法四二〇条一項九号の再審事由に該当しない。

なお、再審第一回判決は、原判決に再審事由が存しないから再審原告の訴を却下したものであって、本件審査決定の当否についてはもともと判断を必要としなかったものであることは当裁判所に顕著であるから、再審原告が本件再審訴訟において指摘するような本件審査決定の違法に関する判断の遺脱を議論すべき余地はない。

従って、再審第一回判決に、所論指摘の再審事由は存しない。

三、よって、本件再審の訴は理由がないからこれを却下することとし、再審費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮田信夫 裁判官 高山健三 裁判官 武波保男)

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